(ベトナムの昔話)
昔むかし、フンブォンという名の王さまがいました。
王さまは、年をとってきたので、王位をゆずりたいと考えました。しかし、息子が20人もいるため、だれにゆずるか悩んでいました。
ある日、王さまは20人の息子たちを呼んで、こう言いました。
「先祖がこの国をつくってから、私が6代目の王となる。おかげで、我が国は今も平和な暮らしができている。しかし、私は年をとって、もう長くは生きられないだろう。次の王位をつぐのは、今年の、先祖に祈りをささげる祭で、私の願いどおりの物を持ってきた者だ」
これを聞いた兄弟たちは、みんなが王位につきたいと思いました。
しかし、王の願いは何か、だれもわかりません。ただ、祭の日に、高級な珍しい食べ物を 持ち寄って、競うことだけは、わかっていました。
兄弟たちは、世界中の森や海へ、珍しくておいしい食べ物を さがしに行きました。
18番目の息子、ラン・リウは困りました。
彼は、母親が若いころ 病気で亡くなったので、とても貧しかったのです。子どものころから、米作りや畑仕事しか、したことがありません。
しかし、彼は他の兄弟とくらべて、一番 親切な人でした。
ある夜、ラン・リウは夢の中で、神さまのお告げを聞きました。
「天地の中で 米より尊い物はありません。他に 珍しくておいしい食べ物があったとしても、人は米がなくては生きられないのです。あなたが一生懸命、育てた米を使って、先祖への供え物にしなさい」
夢からさめると、ラン・リウは思わず微笑んでいました。なぜなら、神さまの言うことが正しいと、思ったからです。すぐに、彼は香りが良くて、真っ白で きれいな餅米を取り出しました。その米に、緑豆と豚肉の具を入れて、ラーゾンと呼ばれる大きな葉で包み、四角形にしました。さらに、餅米をすりつぶして練った、丸い形の物も作りました。
いよいよ、祭の日。
王の息子たちは、世界中のおいしい高級な食べ物を 持って集まりました。
王さまは、それらをすべて見てから、ラン・リウが持ってきた食べ物の前で足を止めて、これは何か、と聞きました。ラン・リウは、夢の中で神さまから聞いた話とともに、食べ物について説明しました。すると、王さまはその食べ物を選んで、お供えしました。
お祈りが終わると、王さまは家来たちといっしょに、ラン・リウが持ってきた物を召し上がりました。
「これは、おいしい!」皆が口々にほめました。
王さまは息子たちを集めて、こう言いました。
「丸い形をした食べ物は天をあらわす、バインザーイと名づけよう。そして、四角い形をした食べ物は大地をあらわす、バインチュンと名づけよう。ラン・リウは、私の願いどおりの物を持ってきてくれた。ラン・リウに王位をゆずることにする」
この時から、テト(ベトナムのお正月)になると、バインチュンとバインザイを作るようになりました。バインチュンとバインザイがなければ、『テトの“味”を失う』と言われるほど、テトを代表する食べ物となりました。
おくづけ
バインチュン・バインザイ(ベトナムの昔話)
文:Kiritani Shoichiro Trần Thị Thanh Thủy
絵:Nguyễn Thị Ngoan
校正:Trần Thị Thanh Thủy
日本語朗読:塚崎美津子
企画:一般社団法人大阪ベトナム友好協会
制作:多言語絵本の会RAINBOW
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