昔々、両親を早くに亡くした兄弟がいました。兄はよくばりでなまけもの、一方、弟はおもいやりのある、まじめな人でした。大人になって、それぞれ結婚すると、二人は話し合い、別々に暮らすことにしました。兄は家や畑をひとりじめし、弟には一本のスターフルーツの木が生えている、ほんの小さな庭しか、分けてやりませんでした。
弟夫婦はひとことも文句を言うことなく、その小さな庭に小屋を建てました。そして、そこでつつましく暮らしながら、スターフルーツの木を大切に育てました。
幸運にも、その年、スターフルーツはたくさんの実をつけました。弟夫婦はとても喜び、実が熟したら、売ってお金やお米にしようと、話し合っていました。
ところが、ある日、突然どこからともなく、鳳凰が飛んできて、スターフルーツの実を食べ始めたのです。それを見た弟は、嘆きながら言いました。
「鳳凰よ、わたしたち夫婦には、このスターフルーツしかないのだよ。今こうしてお前が実を食べてしまったら、この先、わたしたちはどうやって暮らしていけばいいのだい」
それを聞いた鳳凰は言いました。
「実をひとつ食べさせてくれたら、金のかたまりをひとつ差し上げます。手のひら3つ分の袋をお作りなさい。それを持って、金を取りに行きましょう」
鳳凰が人間のことばを話したので、弟はとても驚きましたが、鳳凰の言う通り、妻に手のひら3つ分の袋を作らせました。
次の日、鳳凰がまたやって来ました。鳳凰は、スターフルーツを、おなかいっぱい食べると、弟に背中に乗るように言いました。弟を背中に乗せた鳳凰は、高い山を越え、広い海を渡り、金銀財宝のあふれる島までやって来ました。弟は、持ってきた手のひら3つ分の袋に、ちょうど入るだけの金を取り、鳳凰と一緒に小屋へ戻りました。
そして、弟夫婦はお金持ちになりました。お金持ちになった二人は、お金を周りの貧しい人々にも分けました。その優しく温かい心づかいは、近所の人々にたいへん喜ばれました。
弟夫婦がお金持ちになったことを知った兄夫婦は、すぐに、そのわけを探りにやって来ました。弟は正直にスターフルーツと鳳凰の話をして聞かせました。
話を聞き終えると、兄は、弟のスターフルーツの木と小屋を、自分の家や畑と交換してほしいと頼みました。弟は、兄の言う通り、交換してやりました。
兄夫婦は、スターフルーツの木が生えている庭にある小屋に、越してきました。兄夫婦は、毎日働きもしないで、実を金に変えてもらおうと、鳳凰が来るのを待っていました。
ある日、鳳凰がスターフルーツを食べにやって来ました。鳳凰が枝に止まるや否や、兄は飛び出てきて言いました。
「鳳凰よ、わたしたち夫婦はとても貧しいんだよ。年中このスターフルーツを育てているしかないのだよ。今こうしてお前が実を食べてしまったら、この先、わたしたちはどうやって暮らしていけばいいのだい」
弟のときと同じように、鳳凰は言いました。
「実をひとつ食べさせてくれたら、金のかたまりをひとつ差し上げます。手のひら3つ分の袋をお作りなさい。それを持って、金を取りに行きましょう」
それを聞くと、兄は喜び勇んで、妻に金を取りに行くための袋を作らせました。ところが、よりたくさんの金を持ち帰りたい兄夫婦は、手のひら3つ分ではなく、9つ分の袋を作ったのです。
次の日、鳳凰がやって来るなり、兄は鳳凰に、急いで金を取りに連れて行くよう言いました。
鳳凰と兄は、高い山を越え、広い海を渡り、あの金の島までやって来ました。
目の前に広がる金銀財宝に、兄は目がくらみました。兄は、急いで手のひら9つ分の袋に金を詰め込み、さらに、自分の服のあらゆるところに、金をねじ込みました。そして、鳳凰の背中に乗りました。
遠い道のり、金が重くてたまりません。しばらくすると、鳳凰は疲れ切ってしまいました。鳳凰は兄に金を減らすよう言いましたが、兄は全く聞き入れず、ひとつも捨てようとはしませんでした。
そこへ、とても強い風が吹いてきました。鳳凰は耐えきれず、羽が大きく傾きました。すると、よくばりでわがままな兄は、たくさんの金とともに、海に落ちて沈んでしまいました。
おくづけ
ベトナムの昔話「スターフルーツの木」にほん語
絵と文:ズオン トゥ アン
翻訳:近藤美佳
朗読:塚崎美津子
音楽:秋山裕和
企画:にほんごの会くれよん
制作:多言語絵本の会RAINBOW
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