つるのよめさま

文(ぶん):浜(はま) なつ子(こ)
絵(え):よこやま ようへい

1.

昔(むかし) むかしの こと です。
ある 山(やま)の 村(むら)に、若者(わかもの)が ひとりで すんで いました。

2.

「さあ、今日(きょう)も 山(やま)へ 木(き)を 切(き)りに いくと するか」
バサ バサ バサ
空(そら)から 白(しろ)いものが おちて きました。

3.

「おや、つる じゃないか。かわいそうに、矢(や)が ささって いるぞ。どれ、助(たす)けて やろう」
若者(わかもの)は  つるの 矢(や)を ぬいて、きれいな 川(かわ)の 水(みず)で あらって あげました。そうすると  つるは 元気(げんき)に なりました。

4.

「ほうら、空(そら)に 帰(かえ)るが いい」 
若者(わかもの)が つるを 空(そら)に 向(むか)かって 持(も)ち上(あ)げると、つるは、いきおいよく 飛(と)んで いきました。

5.

それから 何(なん)日(にち)か たった 晩(ばん)、トン トン トン 戸(と)を たたく 音(おと)が しました。
「こんな 雪(ゆき)の 夜(よる)に、だれ だろう?」

6.

若者(わかもの)が 戸(と)を あけると、色(いろ)の 白(しろ)い きれいな 娘(むすめ)さんが 立(た)って いました。
「わたしを おまえさまの よめさまに して ください」
「なにを いうんだ。こんな びんぼうな 家(いえ)に よめの くる はずがねぇ」
「びんぼう など なんでも ありません。どうか わたしを おいて やって ください」

7.

若者(わかもの)は 夢(ゆめ)を みているような 気持(き も)ちで、娘(むすめ)さんを 家(いえ)の 中(なか)に 入(い)れて あげました。
娘(むすめ)さんは 若者(わかもの)の よめさまに なり、しあわせに 暮(く)らして いました。

8.

ある 日(ひ)の こと です。
「わたしは これから 隣(となり)の 小屋(こや)で 布(ぬの)を おります。布(ぬの)を おって いる 間(あいだ)は ぜったいに 中(なか)を 見(み)ないで くださいね」
「わかった。約束(やくそく)する。ぜったいに 見(み)ない」

9.

ぱったん ぱったん ぱったん ぱったん  布(ぬの)を おる 音(おと)が きこえて きました。
そうして、三(みっ)日(か)が すぎました。
「どうぞ、これが わたしの おった 布(ぬの)です」

10.

「ああ おまえ。ずいぶんと やせて しまって。さぞ つかれただろう。でも、なんて きれいな 布(ぬの)なんだ。よし、これを 町(まち)へ 売(う)りに 行(い)こう」

11.

あまりの 美(うつく)しさに たくさんの 人(ひと)が 売(う)って くれと 言(い)いました。
その 中(なか)に、りっぱな 着物(きもの)を きた 人(ひと)が いました。
「これは、殿(との)さまに さしあげたい 布(ぬの)だ。もう 一(いち)枚(まい) おって おくれ。お金(かね)は いくらでも 出(だ)す」

12.

若者(わかもの)は おおよろこびで 家(いえ)に 帰(かえ)って きました。
「あの 布(ぬの)は、お殿(との)さまの 着物(きもの)に なる ことに なった。あと 一(いち)枚 (まい)ほしい そうだ」

13.

「もう 一(いち)枚 (まい)ですか。わかりました。こんども 小屋(こや)の 中(なか)を ぜったいに 見(み)ないで くださいね」 
そうして よめさまは、小屋(こや)の 中(なか)に はいって いきました。

14.

ところが、布(ぬの)を おる 音(おと)に 元気(げんき)が ありません。
ぱっ……たん ぱっ……たん
ぱっ……たん ぱっ……たん
「どうしたんだろう。よわよわしい 音(おと)だ」

15.

若者(わかもの)は 心配(しんぱい)で、がまんできずに、戸(と)を あけて しまいました。
すると、そこには 一(いち)羽(わ)の つるが いました。自分(じぶん)の 羽(はね)を ぬいて 布(ぬの)を おって いたのです。
「あ、おまえは!」

16.

「はい。私(わたし)は おまえさまに 助(たす)けて いただいた つるです。あの ときから、おまえさまを おしたい して いました。でも、この すがたを 見(み)られては もう おしまいです。おそばに いる ことは できません。さようなら」

17.

そう いって、つるは 空(そら) 高(たか)く とんで いって しまった そうです。

18.

おくづけ
「つるのよめさま」日(に)本(ほん)語(ご)
文(ぶん):浜(はま) なつ子(こ)
絵(え):よこやま ようへい
朗(ろう)読(どく):朗読(ろうどく)グループ・アイ
音楽(おんがく):秋山(あきやま)裕和(ひろかず)
企画(きかく):にほんごの会(かい)くれよん 
制作(せいさく):多(た)言(げん)語(ご)絵(え)本(ほん)の会(かい)RAINBOW

19.

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