あめだま

作(さく):新(にい)美南(みなん)吉(きち)
絵(え):いのう みどり 

1

春(はる)の あたたかい 日(ひ)の こと、わたし舟(ふね)に 二(ふた)人(り)の 小(ちい)さな 子(こ)どもを 連(つ)れた 女(おんな)の 旅(たび)人(びと)が 乗(の)りました。

2

舟(ふね)が 出(で)ようと すると、「おうい、ちょっと 待(ま)って くれ。」と、土(ど)手(て)の 向(む)こうから 手(て)を ふりながら、さむらいが 一人(ひとり) 走(はし)って きて、舟(ふね)に 飛(と)びこみました。

3

舟(ふね)は 出(で)ました。さむらいは 舟(ふね)の 真(ま)ん( )中(なか)に どっかり すわって いました。ぽかぽか あたたかいので、そのうちに いねむりを 始(はじ)めました。

4

黒(くろ)い ひげを 生(は)やして 強(つよ)そうな さむらいが、こっくり こっくり するので、子(こ)どもたちは おかしくて、ふふふと 笑(わら)いました。

5

お母(かあ)さんは 口(くち)に 指(ゆび)を 当(あ)てて、「だまって おいで。」と 言(い)いました。さむらいが おこっては 大(たい)変(へん) だから です。子(こ)どもたちは だまりました。

6

しばらく すると 一人(ひとり)の 子(こ)どもが、「母(かあ)ちゃん、あめ玉(だま) ちょうだい。」と、手(て)を 差(さ)し( )出(だ)しました。

7

すると、もう 一人(ひとり)の 子(こ)どもも、「母(かあ)ちゃん、あたしにも。」と 言(い)いました。

8

お母(かあ)さんは、ふところから 紙(かみ)の ふくろを 取(と)り 出(だ)しました。ところが、あめ玉(だま)は、もう 一(ひと)つしか ありません でした。

9

「あたしに ちょうだい。」「あたしに ちょうだい。」二(ふた)人(り)の 子(こ)どもは、両(りょう)方(ほう)から せがみました。あめ玉(だま)は 一(ひと)つしか ない ので、お母(かあ)さんは こまって しまいました。

10

「いい 子(こ)たち だから、待(ま)って おいで。向(む)こうへ 着(つ)いたら、買(か)って あげるからね。」と 言(い)って 聞(き)かせても、子(こ)どもたちは、「ちょうだいよう、ちょうだいよう。」と だだを こねました。

11

いねむりを して いた はずの さむらいは、ぱっちり 目(め)を 開(あ)けて、子(こ)どもたちが せがむのを 見(み)て いました。お母(かあ)さんは おどろきました。いねむりを じゃまされたので、この おさむらいは おこっているに ちがいないと 思(おも)いました。

12

「おとなしく して おいで。」と、お母(かあ)さんは 子(こ)どもたちを なだめました。けれど、子(こ)どもたちは 聞(き)きません でした。すると、さむらいが すらりと 刀(かたな)を ぬいて、お母(かあ)さんと 子(こ)どもたちの 前(まえ)に やって 来(き)ました。

13

お母(かあ)さんは 真っ青(ま  さお)に なって、子(こ)どもたちを かばいました。いねむりの じゃまをした 子(こ)どもたちを、さむらいが きって しまうと 思(おも)ったのです。

14

「あめ玉(だま)を 出(だ)せ。」と、さむらいは 言(い)いました。お母(かあ)さんは、おそる おそる あめ玉(だま)を 差(さ)し( )出(だ)しました。

15

さむらいは それを 舟(ふね)の へりに のせ、刀(かたな)で ぱちんと 二(ふた)つに わりました。そして、「そうれ。」と、二(ふた)人(り)の 子(こ)どもに 分(わ)けて やりました。

16

それから、また 元(もと)の 所(ところ)に 帰(かえ)って、こっくり こっくり ねむり 始(はじ)めました。

17

おくづけ
「あめだま」日(に)本(ほん)語(ご)
さく:にいみ なんきち
え:いのう みどり 
朗(ろう)読(どく):塚(つか)崎(さき)美(み)津(つ)子(こ)
音楽(おんがく):秋(あき)山(やま)裕和(ひろかず)
企(き)画(かく):にほんごの会(かい)くれよん 
制(せい)作(さく):多(た)言(げん)語(ご)絵(え)本(ほん)の会(かい)RAINBOW
協(きょう)力(りょく):NPO法(ほう)人(じん)地球(ちきゅう)ことば村(むら)

18

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